Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 Y-S3 スピーカシステムデザインガイド シミュレーション設計および実測確認 - 直接音と反射音の影響 - 2008年12月 目次 はじめに ...............................................................................................................................2 1.スピーカの狙い位置の設定............................................................................................ 3 2.特定の受聴点における応答の評価................................................................................. 8 3.出力レベルの設定.............................................................
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 はじめに Y-S3 は、スピーカを中心とした出力系システムの設計支援ソフトであり、特に、 スピーカの配置設計において有効なツールとなる。このソフトを用いることで、 設計者は必要な床面形状を簡易に入力することができ、所定の位置と角度でスピ ーカを設置したときの床面上でのカバーエリアを 3 次元内にて検討することが可 能となる。 また、Y-S3 は複数スピーカによる干渉を考慮した音圧分布の計算や、特定の受聴 点における応答の計算、システムのゲイン設定を変更することによる床面での SPL 計算などを実行することが可能で、このソフトを使うことにより出力系シス テムの設計時点において検討すべき多くの項目に関する有効な情報を得ることが できる。 以下では、スピーカの狙い位置の設定、特定の受聴点における応答の評価、出力 レベルの設定を例に取り、実際の設計過程において Y-S3 の計算結果がどのように 利用できるかの例を示す。また、Y-S3 は簡易形状入力と適切なカバーエリアの設 定によるスピーカ配置設計を前提として、直接音のみの影響を計算しているが、 実際の音場に
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 1.スピーカの狙い位置の設定 Y-S3 では、スピーカアレイごと、またはそれを構成するスピーカごとのコンター図が出力 できるため、床面上でのカバーエリアをチェックしながら、スピーカの狙い位置を調整す ることができる。このとき、複数のスピーカによるカバーエリアの重なりが大きいと、床 面上での音圧分布に位相干渉による谷間が広い範囲で現れる。Y-S3 では音圧分布のカラー マップ表示を使って、この影響を評価できる。ただし、Y-S3 では直接音による影響のみを 計算するため、反射音による影響を含んだ実際のホール内における音圧分布とは異なるこ とが予想される。この反射音の影響がどのように現れるのかを把握しておくことは、カバ ーエリアの設計において重要である。 以下では、センター位置に 2 台構成のスピーカアレイを設置した場合を例にとり、スピー カ狙い位置の設定例とそのときの位相干渉による音圧分布上での谷間の状態を示し、最後 に、実際のホールで測定した音圧分布との比較例を示す。 スピーカ狙い位置の設定 開き角による狙い位置の違い まず初めに、スピー
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 カバーエリアの確認 次に、このスピーカが、アレイ全体として適切なエリアをカバーしているかどう かをチェックする。Y-S3 上では、 をクリックして Array Mode に切り替えると、 アレイ全体によるコンター図が表示される。下図に Splay angle 50.0 のときの結 果を示す。この図を見ると、現在のアレイ設定で客席内の主要部分となる中央付 近をカバーできていることが確認できるが、一方、1kHz のコンターでは複数スピ ーカからの音の干渉によって生じる音圧分布の谷間が観測される。 カバーエリアのチェック(左:250Hz、中:1kHz、右: 4kHz 全て 1/1 Oct.
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 250Hz 500Hz 1kHz 2kHz 図 2: 周波数帯域ごとの音圧分布(全て 1/1 OCT Band、周波数は中心周波数) 実測との比較 複数スピーカ間の位相干渉による音圧分布の谷間は、実際の音場では反射音の影響を 受ける。この反射音の影響がどのように現れるのかを把握するため、以下に実測結果 との比較を示す。 実測の条件 実際の音場では、スピーカ IF2115/64 ×2 台を、所定の金具で開き角 50°にて固 定し、舞台上部のバトンに吊り下げて舞台床面から 7.
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 500Hz 1kHz 2kHz 図 3: 周波数帯域ごとの音圧分布(中音域) (左:Y-S3 による計算結果、右:実測結果) 低音域における反射の影響 250Hz と 125Hz 帯域での音圧分布を図 4 に示す。各図左側の計算結果では、対象 周波数帯域の音波の波長がスピーカ間隔に比べて十分長いことから、複数スピー カ間の干渉による音圧分布上でのディップは認められない。一方、各図右側の実 測結果においては、音圧分布上で干渉による谷間が認められる。これは、スピー カからの直接音と、壁面からの 1 次反射音による干渉が原因と思われる。低音域 においてはスピーカの指向性が広いために壁面への放射量が多く、また、壁面の 凹凸に比べて対象周波数の波長が長いために拡散効果が発揮できず、直接音と 1 次反射音の干渉が広い範囲に渡って均一に表れるため、このような分布の谷間が 6
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 生じている。以上のように、低音域では反射波による影響が分布の不均一として 現れることがある。これは部屋のモードの影響である、といった解釈も可能であ る。通常のエンクロージャー型スピーカでは、低音域における指向性制御が困難 なため、スピーカの狙い角の設定だけではこうした谷間を解消することはできな い。しかし、こうした分布の不均一は、直接音のみを対象とした設計評価の時点 では観測されないが、実際の音場においては現れることがある、という事実は把 握しておく必要がある。 125Hz 250Hz 図 4: 周波数帯域ごとの音圧分布(低音域) (左:Y-S3 による計算結果、右:実測結果) 7
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 2.特定の受聴点における応答の評価 前章で示したような、複数スピーカによる干渉の影響は、受聴点での応答においては周波 数特性上のディップとなって現れる。このとき実際の音場においては、反射音の影響によ ってディップの深さが緩和されることが予想される。 以下では、前章と同じくセンター位置に 2 台構成のスピーカアレイを設置した場合を例に とり、直接音のみによる計算結果と実際のホールにおける測定結果との比較例を示す。 受聴点における周波数特性 深いディップが表れる場合の評価 図 5 に点 A(x=6m, y=6m)の点における結果を示す。この点は、客席中央から 6m 上手側に寄った場所(客席上手側半分のエリアのほぼ中央付近)に位置する。 赤線は実際のホールでの測定結果で直接音到来から 15ms 青線は Y-S3 の計算結果、 までの積分値、ピンクの線は同じく実測結果で 100ms までの積分値を示す。実測 結果は、8192 ポイントのフーリエ変換によって求めたスペクトラムを、25 ポイン トごとの移動平均により平滑化している。グラフの縦軸は相対音圧レ
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 [dB] 0 -10 -20 100 1000 10000 [Hz] 図 5: X=6,Y=6 の点における結果 青:Y-S3,赤:実測/直接音到達後 15ms 積分値,ピンク:実測/同 100ms 積分値 (実測は移動平均値) 高域の落ち込みとして現れる場合の評価 つづいて図 6 に、点 B(x=1m, y=10m)における結果を示す。この点は、客席全 体のほぼ中央付近に位置する。青線は Y-S3 の計算結果、赤線は実際のホールでの 測定結果で直接音到来から 15ms までの積分値を示す。実測結果は、8192 ポイン トのフーリエ変換によって求めたスペクトラムを、25 ポイントごとの移動平均に より平滑化している。グラフの縦軸は相対音圧レベルで、それぞれの応答の最大 値を 0dB として基準化している。 Y-S3 での計算結果(青線)を見ると、特定周波数でのディップは表れておらず、 4kHz 付近から右肩下がりの特性となっている。これは、受聴点から 2 つのスピー カまでの距離差が小さいために、干渉によって打ち消しあう周波数がかな
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 ると考えられる。 [dB] 0 -10 -20 100 1000 図 6: X=1, Y=10 の点における結果 10 10000 [Hz]
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 3.出力レベルの設定 Y-S3 では、アンプの種類やゲイン設定、入力レベルなどの設定を変化させながら、受聴点 における想定音圧レベルを計算することができる。この計算結果は、場内で所望の音圧レ ベルが得られるシステムであるかどうかを評価する際に有効である。ただし、直接音ベー スの計算においては、受聴点での SPL はスピーカからの距離が増加するに伴い単調減衰す るが、実際の音場では拡散音の影響により遠方に行くに従ってその減衰率は低下する。 以下では、Y-S3 を用いたレベル設定の例を示し、直接音のみによる計算結果と実際のホー ルにおける測定結果との距離減衰の比較例を示す。 Y-S3 を用いたレベル設定例 Speaker Property の Config タブで、入力レベルとアンプのアッテネータを設定 し、所望の SPL が得られるようなレベルセッティングを検討する。 最初にスピーカを設置したときや、スピーカ種類を変更したときは、推奨アンプ が選択され、レベルセッティングはデフォルト値(Input Level が+4.
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 図 8:レベル設定(変更時) このとき遠方の点、例えば(X=0, Y=22.0)における SPL は 95.
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 衰が鈍化する点は、室の大きさや吸音条件によって異なるが、例えば図 10 に示すよう な理論値の計算方法が示されている。 Meas 1kHz 0 Meas 2kHz 0 YS32kHz Level (dB) Level (dB) YS3 1kHz -5 -10 -5 -10 -15 -15 0 5 10 15 20 25 図 9: 距離減衰の比較 0 5 10 15 20 25 Distance (m) Distance (m) 上:音源と受音点の位置関係、下:測定結果 図 10: 直接音と間接音の減衰の理論値 Barron による修正式 (pp32. M.
Y-S3 スピーカシステムデザインガイド 直接音と反射音 まとめ 位相を考慮した Y-S3 シミュレーションを利用することで、下記のような検討が可能で ある。またその有効性は実測でも確認された。 複数スピーカ間の干渉。 スピーカの設置位置、狙い、数による音圧分布の変化。 実際のホールにおける実測結果からも、カバーエリア計画において位相を考慮した検 討を加えることの有効性が示された。 ただし、以下の点については直接音によるシミュレーションでは顕在化しないため、 配慮しておく必要がある。 おもに低域周波数における反射波の影響(部屋に固有なモード)。 遠距離での距離減衰(有響空間では計算より緩慢になる) 。 Y-S3 を用いることで、複数スピーカ間の干渉やカバーエリアなどを事前に予測でき、 スピーカの適切な設置位置を事前に検討できる。逆にもしシミュレーション上で問題 となるような配置を行った場合、その問題は実音場でも同様に再現されうるため、問 題を回避するための指針となる。実際の有響空間では計算結果に現れない影響がいく つか出てくるが、計算手法の特徴を把握しておくことで、設計段階で